小さな家のすすめ

絵本「ちいさいおうち」やドラマ「大草原の小さな家」が好きでした。

幼少期に山のふもとの小さい家に暮らしていたので原風景として刻まれているせいかもかもしれません。住宅の脇には、父が一から手で作った小屋があり、その周りにはサクランボの木やスモモの木が季節ごとにの実を実らせます。出入口付近にはバラが植えられて、ナマケモノの私は近道しようとして、その上で転び痛い目にあいました。ちょっとした畑の向こう側には小川が流れていて、カエルやサンショウウオの卵を採取したり、玄関先にはかご型のブランコが据え付けられていて、友達が来たらそこでおままごとしたりして遊んだりしました。ちょっと、山の中に入って遊んだり、今では考えられない環境です。

 

そんな自分の勝手な感傷を抜きにしても、小さな家にはメリットがたくさんあります。
そんなメリットを紹介できればと思っています。

住宅建築計画が始まるのは、そこで暮らす家族が多いとき、又はこれから多くなると見込まれる時点だと思います。しかし家族が多い時期は、あっという間に過ぎ去ってしまいます。現在の核家族化、少子化の宿命なのでしょう。

なので、できる限り小さな家をお勧めしたいと常日頃思っています。

小さい家にはこんなにメリットがあります。

一つづつ解説していきます。

• 日差しや風を取り込みやすい

敷地に対して、家を大きく計画すると、どうしても風の通りや日の入りが悪くなります。

最近は高断熱高気密住宅なので快適な住環境は実現できるのですが、豊かで幸せな暮らしとは少し違う気がしています。気候の良い季節には、外からの心地よい風を感じたいですし、朝の光を感じた風に揺らぐ緑を楽しむことなど、ささいなことに幸せが潜んでいる気がしてます。

さらに、建物自体にも良い影響があります。床下や外壁内部、小屋裏などの見えない部分にも通気が必要です。断熱方法にもよりますが床下や外壁小屋裏内の環境は住宅の寿命を決めるうえで重要です。できるだけ通気を良くすることで、内部の湿気を逃がし乾燥させることで建物の高寿命化につながります。湿度の高い九州ではなおのことで、建物内部の通気を良くし乾燥させることで、木は強くなりシロアリ被害の予防につながります。(シロアリは通風を嫌います)

境界ギリギリの部分は、通気が悪くなり湿気がたまりがちなのです。見えないところにも気を配りたいですね。

• インテリアを楽しむ

敷地ギリギリに窓を設けようとすると、法の採光規制が厳しくなりどうしても大きな窓が必要になります。大きな窓を設けるとどうしても壁が少なくなります。

それに比べ、敷地から建物を離して計画できると窓が小さくても日差しや風を取り込むことができ、結果壁が増え家具を配置する余白がうまれます。花を飾ったり、好みの家具を楽しんだり、絵画をかけたり。それに加え、外構に植栽があるとさらに心が豊かになることでしょう。季節も感じられ野鳥が訪れたりもします。

手入れの手間が増えますが、それも楽しいひと時となり豊かな時間となるでしょう。

インテリアとは別の話になりますが、壁が増えると、構造的にも強くなります。小さな建物は風の影響も受けにくく、耐震的にも耐風的にも有利になります。

• コストダウン

当たり前のことですが、建物が小さいとコストダウンつながります。一坪90万円とします。単純に90万だけではなく融資を受けると利息が付いてきますよね。その一坪の費用があればゴージャスな家族旅行も実現することができます。家族の思い出を増やすことができるのです。

さらにランニングコストもダウンできます。空調などの電気代はどうしても建物の大きさに依存します。固定資産税も大きさに付随して金額が上がります。

 

• メンテナンスが楽に

広い家を良好に保つには、それなりにお金も時間も必要になります。

掃除一つをとっても、簡単に想像できるでしょう。

小さい家は時間も短縮することができます。

長期で考えると外壁、屋根のメンテナンスや床下のシロアリ点検、配管の点検メンテナンスなども建物が小さいと費用が少なくすむでしょう。

建物を長期で大切にしていくには大切なことです。

また、建物が広いと空気がよどむ箇所が産まれやすく、そこから木材が傷んでくることがよくあります。

また、建物が大きいと、日差しが届かない箇所も生まれやすく、暗い場所は汚れが目立たず、掃除されにくくなったりもします。(暗い場所があるのは、個人的には好きなのですが)

 

• 庭を楽しむ

人間、土に触れなければならないと常日頃思っています。土というより「自然に」でしょうか。

話はそれますが、最近時間管理の話を聞きました。

効率的に何かしようとすると焦燥感にかられて忙しく感じられる。そのわりに効率的な作業とならない。やらないことを決める方が重要で、さらに、無駄を楽しむ心の余裕を持つことが、生きた時間の使い方につながるのだということです。この話以外にも、そのようなことが書かれた書籍も多数あったなと思い返しました。

つまり、効率重視より余白を作ることが大切なんですね。

  土や海、自然に触れる時間はまさしくそれだと思っています。海草を採取するお手伝いをしながら、漁師のお嫁さんにお話を聞く機会がありました。「結婚生活いろいろあったけどこの(採取する)作業が癒しになっていた」と伺いました。お手伝いしながら確かに、一心に没頭し作業することは心が落ち着くと実感したのを覚えています。

庭の手入れを苦に思う方も多いのですが、一心に草を取る作業も、心が癒すことになるのかも?ならなかったらすみません(笑)

•家族との距離感が近くなる

家が小さいと、家族の気配が伝わりやすものです。

「おーい」といえば声も届くのも便利です(笑)

人間同士の意思伝達は言葉やジェスチャーだけではない気がしています。それは、気配とか、オーラとか、電磁波、素粒子なのかもしれません?スピリチュアルなことなどはわからないのですが、確かに同じに空間にいないと伝わらないことがあることを、コロナ禍で感じた人も多いはずです。

  時にわずらわしく感じる家族間ですが、物理的に離れられないような環境下であれば何かしらの解決策も生まれるものなのかもしれません。(時には逃げられるスペースがあるとなお良いのかもと思いつつ)

• 無駄なものが増えない

よくお聞きするのが収納をもっと増やしたいとの声です。

 

収納を増やしたい気持ち、よ~くわかります。しかし、その収納されているものたちは本当に必要とされているものでしょうか?収納スペースがあるばかりに、不必要なものが増えてしまうような気がしませんか。(我が家にも開かずの収納スペースがあるので自戒込めて。)

 

セオリーだからと安易に収納スペースを作るより、必要に応じた生きた収納計画が必要です。

 

大切な思い出の品を収納するスペースを確保しつつ、日常使いのものは循環して活用されるような収納計画が必要だと考えています。

• 狭さを感じさせない工夫もある

そうは言っても、狭苦しい感覚にストレスに感じながら暮らすのは嫌なものです。

狭苦しさを感じるのは、やはり動線が狭いときや、視界がごちゃついて見えている時ではないでしょうか。そう感じないような工夫が必要で、これらをクリアするのは作る側の、私たちの責任なのでしょ

いろんなことを我慢するだけではなく、この世に一つの自分の家です。気分のが上がる部分は大切にしたいものです。

施主に、ものを増やさないでメンテナンスをまめに行うことができる心の余裕を持っていただくためにも、経済的・時間的な余裕が生まれる小さな家は、理想的なのです。

建物だけではなく、出会った方々には幸せになってほしい。
「ぐるり」(周囲)の幸せを願う、ぐるり設計室です。